アメリカ人はなぜプレゼンがうまいのか? 前編:プレゼンの真髄 

大勢の人の前でスピーチをする人

ビジネスの場でプレゼンテーション(発表)が重視されるようになって久しく経ちます。プレゼン能力において、アメリカ人は高い評価を受けることが多く、世界中から見本とされる著名なプレゼンターもたくさんいます。最近は各国でもアメリカ的なスタイルが好まれ、世界各地で講演会を開催・配信しているTEDを見ると、その傾向がうかがえます。 

ではなぜ、アメリカ人はプレゼンがうまいのか?その理由は多数あげられますが、私はアメリカ人がたった一つの「プレゼンの真髄」を体得していること、そして聞き手に鍛えられていることが、高いスキルにつながっていると考えています。 

プレゼンの主役はあなたではない 

Communication 101 "Know your audience"

アメリカの大学では、必修科目としてCommunication 101というクラスを履修させられます。101というのは「最も初級」という意味で、修了すると201、301のように上のクラスを履修できるようになります。学校にもよりますが、101はたいていoral communication、つまり口頭での意思伝達を学ぶ超初級授業で、その中心を占めるのがスピーチやプレゼンです。 

私が授業初日に教わったのは「主役はあなた(話者)ではない。オーディエンス(聴衆)だ」という大原則でした。プレゼンというのは、オーディエンスがいて初めて成立するものであって、話者が好き勝手に話すのはプレゼンではない、というのです。もういきなり目から鱗が落ちました。なぜって、全校朝礼での校長先生の話から、会社での社長の訓示に至るまで、日本のプレゼン場面において「聞いている自分が主役」と思ったことなど一度もなかったからです。 

つまりアメリカ人は、自分主体でプレゼンを考えるのではなく、要は「オーディエンス目線」でプレゼンを設計しているのです。Communication 101で行う発表は、以下のような要素が評価の対象でした。 

  • オーディエンスにとって有益な情報であるか 
  • 興味を喚起し飽きさせない伝え方であるか 
  • 混乱しないよう整理できているか 
  • 要点を強調できているか 
  • 無駄に長くないか 
  • いつ終わるのか示しているか 

このオーディエンス目線こそがプレゼンの真髄であり、プレゼンはエゴではない、エゴであってはいけない、という概念こそ、アメリカ人をプレゼンの達人にしているのだと思います。 

厳しいオーディエンスが優秀なプレゼンターをつくる 

小学校の授業風景

もう1つ、プレゼン力の向上に寄与するのは聞き手の厳しさです。アメリカには、つまらないものはつまらない、と正直に言っていい文化があります。例えば、子供向けの娯楽には数えきれない選択肢があって、子供はつまらなければ他に変える自由と共に育ちます。大学では、退屈な授業を途中退席する生徒もいますし、学期の最終授業日にアンケートが配られ、学生が講師を評価する制度があります。 

こういった「忖度不要」の文化に加え、アメリカには多様な人種、言語、文化、出身、経歴の人たちが暮らしています。「みんな何となく分かっている」という前提ではないので、オーディエンス全体の理解や興味を獲得するために、もっと分かりやすく、もっと適切に、とプレゼンを研鑽しなければなりません。プレゼンがつまらないのは話し手の責任であって、つまらないと飽きてしまうオーディエンスの責任ではないのです。 

私自身、厳しいオーディエンスに鍛えられた経験があります。アメリカの子供にボランティアで日本語を教える機会があり、通常の学校とは別の、毎週土曜日に集まる学校で小学4年生のクラスを3年間、6年生のクラスを3年間受け持ちました。1クラスには15~25人くらいの生徒がいます。この計6年間が思いもかけず、私のプレゼン力向上に大きく寄与する結果となりました。 

前述のように、アメリカの子供は興味に対して正直です。黙って真面目に教師の話を聞くように育っていません。授業はほぼ英語で行いましたが、最初は生徒たちの集中力がないことに驚きました。そもそも私の授業内容が面白くないのだと気づき、ではどうすれば興味を持ってもらえるか、その上でどうやって日本語を覚えてもらえるか、を必死で考えました。その過程が、プレゼンターとオーディエンスの関係を深く洞察し、強化することにつながったのです。 

この経験以降、仕事でもプレゼンに対する恐怖が消えました。決して達人といえるレベルではありませんが、アメリカの子供という “toughest audience in the world” (世界で最も厳しい聴衆)を相手に毎週のように英語でプレゼンを繰り返した後では「もうどんなオーディエンスが来ても平気!」と思える度胸がつき、何よりも主役である聞き手のことをよく考えるようになったのです。 

スティーブ・ジョブズ氏の珠玉のスピーチ 

ではアメリカ人は皆がみな、プレゼン上手なのでしょうか?そんなことはありません。パブリックスピーキング(人前で話すこと)に恐怖を感じる人は全体の75%に上るという研究結果がありますし、実際に聞いていて「下手だなー」と思う話者に遭遇することもあります。25%の中にずば抜けて上手い人が多いのかもしれないし、恐怖を克服しながら熱弁を振るう人もいるのかもしれません。 

「伝説のスピーチ」として世界的に有名なのが、故スティーブ・ジョブズ氏が2005年にスタンフォード大学の卒業式で行ったものです。その動画は、卒業式の祝辞として再生回数が最も多く、今も記録を更新し続けていて「世紀の祝辞」とも賞賛されます。同校のウェブサイトに全文が掲載されており、日本語の対訳つきの動画も探すと見つかります。 

なぜこのスピーチが素晴らしいのか?私はこう感じます。 

  • これから何を話すのか冒頭で予告している(アメリカ式の基本中の基本) 
  • 自分の立場とオーディエンス(卒業生)を完璧に把握している 
  • 自分の生い立ちや経歴に関する少しヘビーなストーリーを助言につなげている 
  • 皮肉を交えたジョークを入れて飽きさせない(超上級レベル) 
  • 絶妙なさじ加減で自社をアピール(超上級レベル) 
  • 最後の引用(「ハングリーであれ。愚かであれ」)によって誰もが忘れることのできないエンディングを創出 

アメリカ式でも、プレゼンの流儀は人それぞれです。ジョブズ氏は、敵をつくることを恐れない、嫌われても構わないという性格で知られていました。このスピーチは、彼にしか発言できないオリジナリティの高さ、実体験から来るメッセージの力強さが人々の感動を呼んだのだと思います。 

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アメリカ人はなぜプレゼンがうまいのか?後編:英語のプレゼンで実践したいこと

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Miyuki Sato

Cimplex Marketing Group代表
在米20年以上、専門分野は市場調査
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